Artist:小林耕平
小林耕平展「蓋が開かない、屋根の上の足音」
小林耕平展『蓋が開かない、屋根の上の足音』
会期: 2015年10月3日(土)〜31日(土)
開廊時間: 11:00 – 19:00(日曜・月曜・祝日休廊)
オープニングレセプション: 10月3日(土)18:00 – 20:00
わたくしども山本現代では、来る2015年10月3日(土)から31日(土)まで、小林耕平個展『蓋が開かない、屋根の上の足音』を開催いたします。
主に映像作品で知られた小林ですが、今回の展覧会では立体作品やドローイングとテキストだけで展覧会を構成し、発表します。ここ数年は数人の協力者を得て、彼らとのやり取りやデモンストレーションから起こる「対話」を素材に制作を続けてきた小林ですが、今展では小林が単独でテキストや問いと向かい合い、作品を制作し、それらの展示物全体を通して「対話としてのオブジェクトは可能なのか」という問いに取り組みます。
小林の作品では、中心となる主題から漏れて行くもの、また勘違いや「突発的な作り話」が次々に生まれ話しが飛躍していくことなどへ意識が向けられてきました。近年は特に、協力者たちとの「対話」を軸に制作を続けており、現在小林が参加している『アーティスト・ファイル2015 隣の部屋−日本と韓国の作家たち』で発表されている『会話を観る』という映像作品の中では、会場に展示されている『皺とり美容クリームはタイムマシンである』というオブジェを前にcore of bellsの山形氏、伊藤亜紗氏の2人からこのような会話が生まれています。
山形:
記憶って 思い出したり忘れたりするっていう言い方もあるんですけども
実はこう引き延ばされ過ぎて全体がわからなくなるっていう なんかそういう見方もあって それがタイムトラベルの時間の伸縮と呼応しているんですね。伊藤:
やはり全体を把握するためは このマニ車を回す必要があったように 角を無くして 丸くすることが重要なんですね それを 地球について考えてみると 地球の場合はこういう山とか山脈が在るわけで ここに皺とりクリームをかけてこの山を平らにすることが重要なんです。そうすると地球全体がツルンとした卵肌になって
そこにあるピンポン玉のような 完全な球体が出来上がります。
このように、台詞が台詞を誘発し、前の話者の話しを受けて次々に積み上げられていく嘘とも「でたらめ」ともつかない会話が、違う階層に到達して行く様子は非常にスリリングで、目が離せません。例えばつい「知ったかぶり」をしてしまい、それを必死に続けなければ行けないというような状況で、スピードを持って生まれてくるイメージを小林は“想像することの異常な跳躍力”と考えています。その跳躍の中から“意味”が派生する瞬間、リアリティを感じる瞬間は私たちを魅了します。
今展の為に描かれた『蓋が開かない、屋根の上の足音』というドローイングは、タイトルから想起されるイメージを元に制作されたものですが、むくつけき男が無骨な室内で壜の蓋に手をかけながら、屋根の音に気付き耳を澄ましている情景が描かれています。このあまりに日常的な情景の一コマと、タイトルの緊迫感との乖離に、つい私たちはまた別の想像を膨らませてしまいます。そこで引き起こされる密やかな笑い、ユーモアなども、小林作品の重要な要素であると言えるでしょう。
協力者なく小林一人で挑む今展『蓋が開かない、屋根の上の足音』は、作家の生々しい思考の痕跡に触れることのできる非常に興味深い展示になると考えております。『アーティスト・ファイル2015 隣の部屋−日本と韓国の作家たち』展にて益々注目を集める小林の新たな挑戦として、是非皆様にご高覧頂きたく存じます。皆様のお越しをお待ち申し上げております。